本当のギムレット

先日、「ギムレット」は大工道具の錐（きり）の意味があるとお伝えしましたが、「ギムレット」には、もう一つ興味深いエピソードがあります。
現在の「ギムレット」は、当店も含め、ジンとフレッシュのライム・ジュースと砂糖もしくはシロップで作るお店が多いかも知れません。しかし、1930年にはじめて出版された「サヴォイ・カクテル・ブック」には、
バローズ・プリマス・ジン 1/2
ローズ・ライム・ジュース・コーディアル 1/2
よくステアし、ミディアム・サイズ・グラスに注ぐ。好みで氷を入れてもよい。
と記されているのです。
そういえば「長いお別れ」なかにも、「ほんとのギムレットはジンとローズのライム・ジュースを半分ずつ、ほかには何もいれないんだ。」という台詞がありますね。

1793年、イギリスの南西部にある英海軍基地プリマス港にプリマス・ジンの蒸留所が建てられます。当時の軍艦には、薬としてジンが積み込まれており、健康維持のためにプリマス・ジンが毎日支給され、海軍将校たちはこの薬を酒として楽しんでいたといいます。
19世紀末、独自の製法で作られるローズ社製のライム・ジュースが、ビタミンCの欠乏によって生じる壊血病を予防すると評判になり、これまた英海軍で、ビタミンが不足しがちな水夫のために毎日全員に配られたそうです。
1890年頃、イギリス海軍の軍医であったギムレット卿が、艦内で将校に配給されていたジンの飲み過ぎを憂慮し、健康維持のためにライム・ジュースを混ぜて飲むことを提唱し、これが「ギムレット」の起源とされ、考案者のギムレット卿にちなんで「ギムレット」と名づけられたようです。